現代の魔法使いなどの異名で知られている落合陽一さんの「落合陽一日本再興戦略」を拝読しました。
普段サンジャポなどでみている落合さんからは想像できない、強い意志を感じる書籍でした。
おすすめです。以下は面白かったポイントです。
目次
存在しない「欧米」ではなく「東洋」に価値を見出すべし

筆者はまず日本の再興を考えるにあたって、「欧米」という概念を疑うことを提唱しています。
そもそも「欧州」と「米国」を組み合わせた「欧米」という概念は、日本人の中にしか存在しない「ユートピア」である。
そんな存在しないユートピアを自分たちが所属する「東洋」よりも優れているものとして扱ってはいけない。
日本が再興するには「東洋的なもの」に対する価値観をもっと高めないといけないというのが著者の主張です。
古市憲寿が理系になったような軽快な口調
面白いのは著者はテクノロジーなどの分野のエキスパートだと思っていたのですが、
社会学者のような視点を持ち合わせている点です。
古市憲寿さんのような軽快なテンポで日本社会について語ります。
具体的には、日本は拝金主義を嫌うくせに超拝金主義だったり、
不倫を叩くくせに、みんなが不倫をしたいと思っている。
トレンディードラマ的な世界観に支配されていることに警鐘をならしています。
そこから再度ものづくりにたいするリスペクトを取り戻すべきだといいます。
そのためにも、江戸時代の身分制度「士農工商」を復活させたらよいと言います。
現代に士農工商の復活を

身分制度というと「格差や差別を助長する」という風に日本人は構えてしまいがちですが、必ずしもそうではないといいます。
例えばインドのカースト制度の中で生きる人たちに話を聞くと、「自由がなく不幸」なのではなくて、自身がどのような人生を歩んでいくのかがある程度見えていることからくる「安定と安心」を感じる人もいるのだそう。
POINT
また士農工商の士はクリエイティブクラスのことで、官僚だけではなくて、産業を興すような起業家や技術イノベーションを通じて新しい概念を作ったり学者も含まれます。
世界を変えていくテクノロジー

そんな風に欧米や東洋という概念の話や日本社会にたいする社会学者的な視点から、
一気に著者の専門分野を思わせるテクノロジーの話に入っていきます。
具体的な技術をいくつも扱いながら、これからの世の中にインパクトがあるものをわかりやすく解説しています。
人工知能、自動翻訳、自動運転、5G(次世代通信)などが実現する世界観。
それを著者は「デジタルネイチャー」という言葉で表現しています。
デジタルネイチャーとは人と機械がごく自然に共存している世界で、
体の一部の機能を機械が担ったり、それこそ体の一部が機械に置き換わったり普通にする社会です。
例えば、現在のパラリンピックでは体の一部をスポーツ用義足で補う人々がいますが、
デジタルネイチャーでは体の一部を機械が担うのが普通の世界なので、オリンピックとパラリンピックを分けて開催する意味もなくなる。
そんな人と機械が融合している社会になるということです。
課題先進国の日本。少子高齢化はチャンス

機械と人間が融合していく未来を迎えるにあたって、よく世間で日本の大問題と言われる「少子高齢化」はむしろ日大きなチャンスだと述べています。
なぜなら少子高齢化する以上、日本は生産性をあげるために機械化を進めるしかない。
通常の国であれば、働き手が減らないので、機械化をすれば職にあぶれる人がでしまう。
するとかつての産業革命時のような機械の打ち壊し運動(ラッダイト運動)が起こる可能性もある。
しかし、日本だとそれがないので、むしろ機械化は正義として積極的に進めることができる。ということのようです。
日本は課題先進国として少子高齢化に取り組み、そこで得たノウハウや技術を世界中の同様の問題が今後発生する国(中国など)に輸出することが可能になるチャンスだと説きます。
さらに日本はそもそも、SUICAや各種ポイントカードが乱立するしており「トークンエコノミー」が普及しやすい素地があると説きます。
その素地を生かして、現在普及してきたブロックチェーンやICO(イニシャルコインオファリング)の仕組みを使えば、お金の流れが変わり、民主主義の形が変わり、地方創生や国の形を変えていくことができるという見解を示します。
リーダー2.0:新しい時代のリーダー像

筆者はリーダー像も語っています。
これまでの時代は
なんでも自分で決断して進めていける「強いリーダー」がリーダー像として理想的だとされていました。
しかし、これからの時代は、
「弱さ」をもっているが故に、自分の苦手な分野はそれが得意な人に任せることができる人。助けたいと思われる「愛される人」がリーダーとしての力を発揮するようになるといいます。
そのような弱さや共感力を大事にするリーダー像を、リーダー2.0と呼んでいます。
これもなんだかとっても納得感があります。安倍さんを見ていると確かに強いリーダーなのですが、古いリーダー像だと感じることが増えてきました。
安倍さんのような存在がいなくなった後の時代には、弱さと共感力を備えた新しいリーダーが出てくるのかもしれませんね。
落合陽一が考える日本の教育

教育についてなるほどと思わせる見方をしているのは、中学まではわりと公教育は悪くないが、高校がダメだと述べていることです。
筆者はこれからの日本では「ポートフォリオマネジメント能力」と、「金融的投資能力」を磨く必要があると述べます。
簡単に言えば、
- いろいろな知識やスキルを持って、様々な職業を組み合わせることができる力
- 時代の流れを読んで自分の力点をどこにかけるのかということを判断する力
ということができるかと思います。
これらの能力が大事になる時代において、日本は小中までの教育はそれなりに意味があるが、高校はよくないと言っています。
その理由は高校が中学の延長になってしまっているから。
中学は高校受験のために勉強する場所になっており、高校は大学受験のための勉強をする場所になってしまっている。
高校生くらいになると、理論的なことを学ぶのにちょうどよい年頃になるので、ポートフォリオマネジメントと投資能力を磨くのに適しているなんて話をしています。
自分ができることからはじめる

技術革新やインターネットの力により創発速度が向上している現代では、人間が学ぶよりも早く物事が進化していく。
だから、あれこれ考えるよりも、「いまできること」をやるべきといいます。
自分らしいものが何かを考えてから取り組む、のではなくて、
どんどん何かをやっていき、そのやっていることが自分らしさになる。
「自分さがしではなくて、いま持っている選択肢から何ができるかを考える」ということが大事
だと言います。
これすごくいい考え方だと思います。
これからの時代に大切なこと

これからの時代は資本の格差よりもモチベーションの格差、文化の格差が大事になると言っています。
例えば、収入が1000倍違うことはあまりなくても、本が1冊しかない家と、1000冊ある家という差は普通にある話。資本による貧富の差よりも、こういった文化の格差をどうやって埋めていくかが大事であるといいます。
AIが台頭していくこれからの時代、人間は機械にはない「モチベーション」を高め、機械が苦手な「リスクをとる」という行為を通じて新しい文化的価値を創っていくこと大切だと言います。